助けてください。
時に、修行を通り越して助けを求める寸前になることさえあります。
探偵にとって修行とは、日々の生活がそれに当たると言っても過言ではないでしょう。
調査を行うにあたってもちろん教育は必要不可欠ですが、ある程度経験を積んだ調査員でさえ、毎日が修行のようなものです。
もう何十年もやっているからとか、こんな調査もこなしているからなどの理由で、「私は完璧です」とは言えないでしょう。
同じようなケースはあるとしても、内容まで全く一緒ということはまずありません。
プロだからとはいえ過信は禁物です。
本当のプロとは与えられたら情報や直面した状況に対して先入観を持たず、いかに冷静になって真実だけを見抜けるか。
それが一番重要なのではないかと私は考えています。
そんな毎日の修行の中でも、これは過酷だなぁ、と感じた経験を紹介しましょう。
それは毎年必ず訪れる夏の話です。夏といえば海に花火にバーベキューなど、楽しいことが盛りだくさんですよね。
聞いただけでも、ワクワクしてしまいそうなことばかりです。
が、しかし…我々にはドキドキばかりが募ります。いったい何にドキドキなのか。
そう、海辺で薄着のお姉さん…
いいえ、全然違います。異性に見とれて対象を逃す…そんなのは大問題です。
私達がドキドキしているのは、まさに真夏の車内張り込みの恐ろしさです。
では何がそんなにこわいのか。
暑さ以外の何者でもありません。単純にその暑さが命取りです。
外気温は軽く30℃オーバーです。そんな炎天下の中、車内は凄まじく蒸されるわけです。
運良く日陰のポイントがあればまだ救いですが、日光直撃というケースも多いのです。
2時間や3時間なんて序の口です。朝から始めて夕方までなんてことも少なくありません。
意識が朦朧としてくるなかで、対象が動いてくれることをただ祈るばかりです。
しかしどんな状況下でもくたばるわけにはいきません。過酷な猛暑ゆえに対象を逃しましたなんて報告ができるほど、
私達も馬鹿ではありませんから、決して体力のみを武器にして挑んでいるわけではないのです。
わずかながらではありますが、シャツにしみた汗とともに知恵も振り絞りながら、業務の遂行に励んでおります。
ゆえに、捕らえた獲物は逃しません。
暑い夏、日中をやり過ごせば一件落着…というわけではないんです。だから夏は怖いんです。
日も傾き涼しくなり始めた夕方、新たな敵が現れます。
蚊です・・・。
気温が下がったとはいえ、まだまだ車の窓は閉められません。それをいいことに侵入してくる蚊。
私達はどんなことがあっても対象を逃しはしませんが、蚊も私達を逃しはしないでしょう。
全く憎いです。
しかし対象者は我々に気づいていないので、打つ手はほぼありませんが、私達は蚊に対して対処法はあります。
探偵を怒らせると痛い目にあうことを、茂みで暮らすヤツらは分かっていないのです。
蚊には後ほど、恐ろしい程の制裁を与えることになるでしょう。
と、こんな感じで私達の夏は通り過ぎていくのです。その光景がイメージできましたでしょうか。
毎日生活をしていく中で全く同じ日というのは決してありません。変わりゆく状況のもと、最善の行動とは何なのか。
その正確な判断力と、そのスピード。これが私達には必須です。
調査のない普段の日でも、街を歩けば自然と頭の中では架空の事象が発生し、それに対する対処法を瞬時に判断する。
そうやって業務に必要な能力が磨かれていきます。
まさに日常が修行ということです。私達において、ゆっくりと過ごせる時間はいつあるのでしょうか。
いや、むしろその時間を欲していないのかもしれません・・・探偵ですから。