修行記|毎日が修行

毎日が修行

ハッ、いない!対象者がいない・・・消えた。

とあるデパートの地下食品売り場でのこと。
ワンピースに華やかなハットをかぶり、すらっとタイトな気品ある女性。
おそらく、ちょうど30歳くらいだろう。
都会の高級ブティック店で目にするような容姿ではあるが、スーパーでカートを引く姿も実に様になっている。

見失わないよう常に視界には入っているのだが、対象者との距離が難しいところ。
どんな商品を購入しているのかを確認することも、この仕事の務めである。
クライアントに報告をするためだ。
その為には、時に対象者へ近づくこともあるが、あまりに近づきすぎるのも禁物。
たいていの人は、一度や二度すれ違った程度では気にならないと思うが、やはり寄り過ぎていれば、「あの人、さっきも・・・」なんて警戒されてしまう。
また逆に、距離を置きすぎてしまえば、見失いかねない。

お菓子を物色しているかのような自分。
しかし、手を伸ばしているポッキーの横には対象者がしっかりと見えている。
つまり、陳列棚をはさみ、その向こう側にワンピース姿の女性を把握できている。
わずかな隙間でも利用し、対象者にいっさい気付かれないまま、より近くに潜んでいるのである。
この女性に限らず、対象者はいつどこで、予期せぬ行動を起こすか分からない。
しかし私たちはそれを見失わずに追うテクニックが数限りなくある。
いや、その場に適した技を瞬時に作りだし、迅速に判断できるテクニックと言った方がいいのかもしれない。
その正確な判断に狂いが生じてしまうと、尾行も難しくなってきてしまう。

対象者のカートはやがて食品でいっぱいになり、ようやくレジへ精算に向かった。
すべての商品を詰め終わり、両手にレジ袋をさげ、売り場を後にする。
向かっているのは、おそらく駐車場と思われる。
あれだけ荷物を持っているのだから他の売り場には立ち寄らないだろう。
対象の歩いていく先には、もう駐車場へ続く通路しかないと思い込んでいた。

と、次の瞬間!

対象がエスカレータを上りきって左に歩いていくのをエスカレータ下から確認。
すぐさま駆け上り自分も左へ。その間わずか5秒弱・・・。

ハッ、いない!?対象がいない・・・消えた。

対象が歩いていった方には、見通しの良い売り場と、隅に非常階段ぐらい。
しかし、どこをどう探しても再び対象者を見つけることは出来なかった。

暇つぶしとはいえ、悔しさが込み上げてくる。私自身のプライドがぁ~。

・・・って、えっ?暇つぶしって、なに?

そう、コレは暇つぶし。友人と遊びの約束で待ち合わせをしていたが、少し遅れるという連絡を受け、待ち合わせ場所であったデパートの食品売り場で尾行ごっこ。
あまりガチガチに追って怪しまれ、最悪通報されても困るので、ホント軽くでしたが。
しかしそれでも学べる事はたくさんありました。
見失った要因なんかも後になって振り返ってみると、「そういうことだったのか~」と改めて得るものもけっこうあるんです。
休みの日の何でもない出来事でしたが、とても修行になりましたね。

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