コラム|ディズニーランドは探偵にとって何なのか?

ディズニーランドは探偵にとって何なのか?

旬のバレンタインデー・ネタはおいといて、クリスマスの話を続けるとしよう。

どうしても伝えたいのだ。オレの苦労を!

クリスマス・イヴイヴの12月23日。
素行調査に参加したオレは、対象者に愛人がいることを確認した。

そして、尾行。
この浮気亭主と愛人女性は、イチャイチャしながら電車を乗り継ぎ、東へ。

彼らが降り立った駅からは、お城や山が見える。

駅を出ると、でかいネズミやアヒルが歓迎してくれた。
そう、あの悪名高きディズ〇ー・ランドだ! 

最悪の展開…。
寝てないカラダが悲鳴を上げているというのに、丸1日に及ぶ尾行が確定した瞬間であった。

殺気に満ちたまなざしで、対象者のあとを追尾するオレ。
お構いなしに愛想を振り撒いて寄ってくる着ぐるみたち。

「殺すぞ!」

思わず口をついて出たセリフに、ネズミの頭の中から舌打ちが聞こえた。
…ような気がした。

こいつらも仕事なんだよね。
でも、わかってよ。オレもツライんだからさ。

おおよそ、遊園地にはそぐわないひとりの男が、窓口に到着した対象者の後ろに並ぶ。

「お、大人、1枚…」

ひとりかよ! 
チケット売りの女性の顔には、はっきりとそう書いてあった。

そして、幼女狙いの変態に違いないと決めつけた冷淡なまなざしで、チケットを渡してきたのだ。

『わかってよ。オレもツライんだからさ』。

そう心でつぶやいていたオレの目は、涙で潤んでいた。

一方、対象者ふたりの楽しそうなことと言ったら…。
ネズミの耳までくっつけて、あっちこっちウロウロ。

『イッツ・ア・スモール・ワールド』だの『カリブの海賊』だの。

まだ、その程度のアトラクションならマシ。

ああ、ついに行ったか『プーさんのハニー・ハント』!
2時間待ちって頼むよ、もう。

遊園地の尾行は、ストレスが溜まる。

ナゼなら、対象者たちがアトラクションに入って行くのを直前まで一緒に並んで見送り、すぐに外へ出て、出口で画撮りをしなければいけないからだ。

そう。まったくアトラクションに乗れないのだ。
いい歳して乗りたいのかよって?
そりゃあ、乗りたいよ。せっかく並んだんだもん!

フゥ~、やっと出てきたよ。

え、そっちの方向は『スプラッシュ・マウンテン』かい!

こいつも並ぶんだよなあ。

ゲッ、2時間半待ち。ディズニーランドの出口を張るにしたって、いつ出てくるかわからない。

そもそも、どんな風にふたりが楽しんでいたか、依頼人も知りたいところだろう。

まあ、苦労の甲斐あって、かなり親し気なふたりの様子は、いっぱい撮らせていただいたが。

これをまとめたら、ボリューム溢れる報告書になることだろう。

それにしても、こっちは膝が悲鳴を上げはじめている。
ちょっとは座ろうよ、キミたち…。

時間を惜しむかのように、飲み物も買わず、アトラクションをハシゴするふたり。

次に向った場所はトュモロー・ワールド。ということは…。

ああ、ついにそこに行くのか『バズ・ライトイヤーのアストロブラスター』! 

レーザービームで悪者を退治するお子チャマ用のアトラクションなのだが、一番、
最新のヤツだけに人気が高いようだ。

遠目からも行列が見える。
最後列の表示は?

うおお~っ、3時間待ち! もうガマンできん! 

後続のスタッフも到着してることだし、こいつだけは乗らなきゃ気が収まらない!

その旨、スタッフに伝えたところ、『画はかなり撮れてますので好きにしてください』と冷たい返信。

やってやる! やらいでか! 

待つこと3時間。

対象者ふたりが仲良く乗り物に乗り込んだ。
次いでオレ。

コイツらを撃ってやりたい。

そう思いつつ悪者の帝王ザークたちをピキューン、ピキューン!

死ね、死ね、死んでしまえ~!

このアトラクションは、出口のところにその人の成績が表示されるのだが、
なんと、オレの弾き出した得点は、上から2番目のランクに入る67万点という超高得点。

階級はコズミック・コマンダーであった。

それを見た対象者の愛人が、
「見て見て、誰だろうね。スゴイ得点!」

思わず、オレオレっと言いそうになる衝動を押さえ、知らぬ顔して外へ出る。

その後ろから対象者ふたりが出てきた。

スタッフは、イチャつくふたりの画をバッチリ押さえたようだ。

そして、やっとディズ〇ー・ランドを後にするふたり。

電車で愛人の自宅へ。

そして、着替えた亭主が出てきて自宅に帰るまで、しっかり見届けて調査解除。

とにもかくにも、地獄の尾行は、何とか終了した。

しかし、報告書をまとめる事務作業が残っている。

その足で事務所に戻り、意識が遠のきながら報告書の作成にかかるオレ。
そのとき、後ろでビデオを編集していたスタッフが言った。

「あ、映像に映ってる。ん、何でニヤついてるんです?」

「ああ、俺、コズミック・コマンダーになったんだよね! スゴくない?」

「…?」

「あ、あのねえ、得点によって階級が与えられるんだけど、上から2番目の高得点を出してね。その階級が…」

「そんなことはどうでもいいから、ちゃんと仕事してくださいよ」

してんだろーが!(怒)

追伸。
コズミック・コマンダーになることがどれほど大変なことか…。

皆さんにも、ぜひ、挑戦してみて欲しいものである。


大阪ナニワのブルース

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